日本語と中国語で学ぶ『三国志』の名言集
この記事の目次
『三国志』冒頭の名言
原文:
分久必合,合久必分。
日本語:
分かるること久しければ必ず合し、
合すること久しければ必ず分かる。
意味:
分裂が長ければ必ず統一され、統一が長ければ必ず分裂するものである。
『三国志演義』第一回の冒頭を飾る名言。
中国の長い歴史において分裂の時代と、統一の時代が交互に存在したことを明らかにしています。
乱世の到来と統一の時代になることの繰り返しは、中国の人々にとっても馴染み深いものです。
『三国志』の主要登場人物にまつわる名言集
曹操編
原文:
子治世之能臣,乱世之奸雄也。
日本語:
君は治世の能臣、乱世の奸雄だ。
意味:
あなたは治まった世では有能な役人だが、乱世となれば狡いことをして利益を得る奸雄だ。
人物鑑定の名手とされた許劭が曹操を評価した言葉。
けっして誉め言葉ではありませんが、曹操はこの言葉を聞いて大笑いしたそうです。
曹操は機知や権謀に富んでいましたが素行が悪く、良心派知識人の間では、曹操は乱世において悪賢い奸雄になるという認識がありました。
呂布編
原文:
人中呂布,马中赤兔马。
日本語:
人の中に呂布あり、馬の中に赤兎あり。
意味:
人の中に呂布あり、馬の中に赤兎あり。
『三国志』の中ですぐれた容姿と抜群の軍事能力を兼ねた英雄といえば、呂布、馬超、周瑜の3人を指すでしょう。
袁紹と曹操らの連合軍が董卓の陣地に攻めたとき、当時董卓の猛将だった呂布が姿を見せた際の言葉です。
馬の中の馬と呼ばれる赤兎馬は、呂布が曹操に滅ぼされたあとに、縁あって関羽の愛馬となりました。
関羽編
❶.原文:
事主不忘其本,乃天下之义士也。
日本語:
主に事えて其の本を忘れず、乃ち天下の義士也。
意味:
主君に仕え、根本を忘れないとは、まことに天下の義士だ。
曹操は関羽を気に入り、金銀や美女を贈り宴会を催して、関羽の気を惹こうとします。
関羽が曹操からの贈り物で喜んで受け取ったのは、赤兎馬だけでした。
その理由を知った曹操は、「あくまでも主(劉備)を忘れない義の人だ」と関羽を称賛して述べた言葉です。
❷.原文:
大丈夫以信义为重。
日本語:
大丈夫は信義を以て重しと為す。
意味:
りっぱな男は信義を重んじるもの。
「赤壁の戦い」で壊滅的な打撃を受けた曹操は、必死の逃避行を開始します。
諸葛孔明は、関羽は曹操と因縁の深い関係であったため、見逃す心配があるとし、関羽を配置しませんでした。
関羽は誓約書を書いた上で、最後の要所に出陣します。
そこに現れた曹操一行が関羽に、昔のよしみを思い出してほしいと懇願し、言った言葉です。
曹操の言葉に、関羽は心を揺さぶられ、つい曹操一行を見逃してしまうのです。
張飛編
原文:
燕人张翼德在此。
日本語:
燕人張翼徳此に在り。
意味:
燕人、張翼徳ここにあり。(張翼徳=張飛)
長坂橋で曹操の大軍を食い止めようと、張飛がただ一人で陣取っていたところに、曹操軍が押し寄せてきます。
張飛が雷鳴のような声で、このように名乗りをあげるやいやな、曹操軍の者はみな脅えたといいます。
張飛の気迫に恐れをなした曹操軍は逃げ出してしまいました。
なんとも凄まじい迫力というほかないですね。
趙雲編
原文:
那枪浑身上下若舞梨花,遍体纷纷如飘瑞雪。
日本語:
かの鎗の渾身上下するは、梨花を舞わすが若く、
遍体に紛紛たるは、瑞雪を飄えすが如し。
意味:
その鎗が全身をめぐってキラキラと上下するさまは、梨の花が舞うようであり、
体のまわりをヒラヒラと雪がひるがえるようでありました。
このシーンは、三国志の戦闘シーンの中で最も美しいのではないでしょうか。
趙雲が包囲網に突っ込み、鎗を左右に突き、敵軍をなぎ倒すさまを描いたくだりです。
キラキラと輝く鎗の先端が、白い梨の花のように、また舞う雪のように、孤軍奮闘する趙雲の周りを巡ります。
劉備の息子の阿斗(=劉禅)を奪い返してきたときの奮闘ぶり、この超人的な戦いぶりと、趙雲の見せ場は多いです。
諸葛孔明(諸葛亮)編
❶.原文:
卧龙凤雏,二人得一,可安天下。
日本語:
伏龍・鳳雛、両人の一を得れば、天下を安んず可し。
意味:
伏龍と鳳雛の二人のうち、一人でも得れば、天下を平定することができます。
劉備は、自分には関羽や張飛や趙雲のような猛者がいるが、彼らをうまく使える軍師がいないのが難だと気づきます。
そこで隠者の司馬徽に聞くと、このように返答しました。
「伏龍」は身を潜めている龍、「鳳雛」は鳳の雛を指します。
両方ともまだ世に知られていない逸材のたとえで、「伏龍」は諸葛孔明、「鳳雛」は龐統であることが明かされていきます。
❷.原文:
死诸葛走生仲达
日本語:
死せる諸葛 生ける仲達を走らす
意味:
死んだ諸葛孔明が生きている司馬懿を追い払った
諸葛孔明は魏の司馬懿(仲達)との戦中に病死しました。
蜀軍は孔明の死を隠し撤退すると、司馬懿は孔明が生きていると思い、追撃せず撤退したという故事に由来する話です。
諸葛孔明は死後も、生きている人に大きな影響を与えるのでした。
周瑜編
原文:
曲有误,周郎顾。
日本語:
曲に誤り有り、周郎顧みる
意味:
演奏に誤りがあると、周郎はキッと振り返る
周郎は呉の周瑜のことで、「郎」は若君を意味します。
『三国志演義』では諸葛孔明の引き立て役ですが、周瑜はイケメンで軍事的天才であるのみならず、音楽的才能もありました。
どんなに酔っぱらっていても、演奏される曲に間違いがあると、そっちの方を向いて正したと噂されたほどです。
ちなみに映画「レッドクリフ」は周瑜が中心の物語ですよ。
『三国志』の理想のリーダー(劉備)から学ぶ名言集
❶.原文:
不求同年同月同日生、但愿同年同月同日死。
日本語:
同年同月同日に生まれなかったことは是非もないとしても、ひたすら同年同月同日に死なんことを願う。
意味:
生まれた日は異なっても、死ぬときは同じ日に死のう。
三国志の主人公劉備が、関羽と張飛と運命的な出会いをし、たちまち意気投合した3人は、張飛の家の桃園で義兄弟の契りを結びました。
以後3人は生涯にわたって絶対的な信頼関係を保ち続けました。
人を信じることが困難な時代に、
「これから先は共に生き、死ぬ事になろうとも、その時は一緒だ」という決意と覚悟を表したものです。
❷.原文:
兄弟如手足,妻子如衣服。
日本語:
兄弟は手足の如く、妻子は衣服の如し。
意味:
兄弟は手足のようなものであり、妻子は衣服のようなものだ。
劉備と関羽が袁術軍と対戦中、張飛は呂布に徐州の本城を乗っ取られてしまいます。
劉備は張飛を責めることはありませんでしたが、関羽は厳しく張飛をなじり、張飛は剣を自らの首に当てはねようとします。
このとき、劉備が張飛の手から剣を取り上げながら言った名言。
衣服は破れても縫うことができるが、手足は断たれれば、どうしてつなぐことができよう。
かつて劉備は死ぬときは一緒という「桃園結議」の誓いを繰り返して、声をあげて泣き、張飛と関羽もいっしょに涙します。
❸.原文:
胜负兵家之常、何可自隳其志。
日本語:
勝負は兵家の常、何ぞ自ら其の志を隳る可けんや。
意味:
勝負は兵家の常、自ら志を失ってはなりません。
遠征中の曹操軍にこてんぱんに撃破された劉備は、華北からはじきだされてしまいます。
劉備は関羽・張飛・趙雲らの部将に、「私の運命は窮まり、きみたちまでも巻き添えにしてしまった」と嘆きます。
すると関羽が上記の言葉を述べて劉備を励まし、奮い立たせるのです。
❹.原文:
勿以恶小而为之
日本語:
悪小なるを以て之を為す勿かれ
意味:
たとえわずかな悪事だとしても、悪いことは行ってはならない。
劉備は蜀王朝を立てた二年後に死亡します。
これは後継者の劉禅にあてた遺言書の一部です。
この文の後に、「善小なるを以て為さざる勿かれ(小さい善だからといって、しないことはいけない。)」と続きます。
劉禅は諸葛孔明の補佐を得て後継の座につきますが、最終的に魏に降伏し、蜀は滅亡してしまいました。
『三国志』に由来する名言集
良禽は木を択ぶ
原文:
良禽择木而栖,贤臣择主而事。
日本語:
良禽は木を択んで棲み、賢臣は主を択んで事う。
意味:
良い鳥は枝を選んでとまり、賢明な臣下は主君を選んで仕える。
「臣下にも主君を選ぶ権利がある」という意味。
歴史上の事実をおもしろく脚色し、俗語をまじえて平易に述べた中国の演義小説の中でよく見られる名言です。
飛将と呼ばれた呂布の場合は、流転のはてに曹操によって滅ぼされてしまいますが、曹操軍団の中核的部将となった徐晃のように、最初に仕えた主君を見限り、自分の能力を買ってくれる第二の優れた君主に鞍替えするケースもあります。
水魚の交わり
原文:
吾得孔明,犹鱼之得水也。
日本語:
吾れ孔明を得たるは、猶お魚の水を得たるがごとし。
意味:
私が孔明を得たのは、魚が水を得たようなものだ。
40代の劉備は、20代の孔明の元に三度も出向いてお願いをし(三顧の礼)、孔明を軍師として迎え、厚遇しました。
それに対して関羽と張飛が嫉妬し文句を言った際に、劉備が返した名言です。
親密度の高い交際を「水魚の交わり」というのはこれに由来します。
ただ東風を欠くのみ
原文:
万事俱备,只欠东风。
日本語:
万事倶に備われど、只東風を欠くのみ
意味:
準備万端整った、後は東風が吹くのを待つのみ。
三国志最大の見せ場「赤壁の戦い」の前夜の出来事です。
呉軍を率いる周瑜は、準備を整えましたが、何かが足りないと考え悩みます。
そこで諸葛孔明が周瑜にメモで渡したのがこの言葉。
孔明は魔術師のように、祭壇に登り、天に祈りを捧げ、火攻めに必要な季節はずれの東風を呼び起こすのです。
この名言は、準備を整えたが肝心なものが足りないときに使われる常套句となりました。
白眉
原文:
马氏五常,白眉最良。
日本語:
馬氏の五常、白眉最も良し
意味:
馬氏の五兄弟の中で、眉に白い毛が混ざっている「白眉」が最も優秀だ。
馬氏の五兄弟は、全員名前に「常」がつくため、「五常」と呼ばれていました。
劉備に取り入れられた四男の馬良は、眉の中に白毛が混ざっており、「白眉」と呼ばれていました。
これをもとに「白眉」とは、多くの中で最も際立ってすぐれた人や物を示すようになりました。
泣いて〇〇を斬る
原文:
挥泪斩马谡。
日本語:
泣いて馬謖を斬る
意味:
情として処分するに惜しい人物であっても、違反があったときには全体の統制を保つために処分する。
街亭の戦いで諸葛孔明の指示に背いて敗戦を招いたため、馬謖は処刑されることになります。
一般的に知られているのは、
「どんなに優秀な者であっても、法や規律を曲げて責任を不問にすることがあってはいけない」という解釈です。
馬謖の処刑に踏み切るにあたり、諸葛孔明は涙を流しましたが、
「軍律の遵守が最優先」と再び涙を流しながら答えたといいます。
『三国志演義』の記述では、劉備は馬謖を信頼してはいけないと言われていたのに、その言葉を守らなかったことを嘆き、泣いたとされています。
『三国志』末尾の名言
原文:
纷纷世事无穷尽,天数茫茫不可逃。
鼎足三分已成梦,后人凭吊空牢骚。
日本語:
紛紛たる世事窮まり尽くること無く、天数茫茫逃がる可からず
鼎足三分已に夢と成り、後人憑弔して空しく牢騒
意味:
この世のことは紛々として窮まりなく、天命はどこまでも広がって逃れられない。
三国分立はすでに過去の夢となり、後人が往時をしのんで心騒がせるだけ。
三国志演義の最終回に書かれた、長編詩の中の末尾四句です。
後漢末の乱世から三国分立し、そこから三国滅亡、西晋の統一に至るまで、約100年に渡る波乱万丈の物語が終わりました。
まとめ
いかがでしたか?
今回紹介したのは一部に過ぎません。
『三国志』は魅力的な登場人物、面白いエピソードや名言、逸話の宝庫です。
名言はどんな人物が発した言葉なのか、そこにどんなエピソードが隠れているのか、
知れば知るほど奥が深いですよね。
あなたもお気に入りの名言が見つかると良いですね!
今後とも知りチャイナでは、中国語学習や中国に関する様々なお役立ち情報を配信して参ります。
参考になったらぜひシェアや「いいね!」お願いします。
引き続きお役立ち情報をお届けする励みになります。